磁性流体入門
(磁性流体とは?)

30年以上の研究、開発、製造販売の経験を基に高校生に理解でき、磁性流体の担当者の方にも参考となる様に解説したいと思います。


@磁性流体とは?

黒い液体で磁石を近付けると引き寄せられる液体です。黒いのは含まれているフェライトの色です。
磁性流体を容器に入れて下から磁石を近付けると針状になります。
これは磁石から出る磁力線に沿って磁性流体が集まるからです。 磁性流体が手に付いた場合は、まず灯油、徐行液をティッシュにつけて拭き取り、その後石鹸で洗えばきれいに取れます。

A磁石との違いは?

磁性流体の性質は磁石とは異なります。
磁性流体の中のフェライトは磁石と違い、粒子の大きさが非常に小さいのです。その事によりフェライトは磁化されていません。よって磁性流体は磁化されていないので鉄にはくっ付きません。このフェライトの性質を専門的には「超常磁性」と呼んでいます。

B磁性流体の成分は?

磁性流体の成分は大まかに言うとフェライトと油(溶媒)でできています。
フェライトはAで言いました様に粒子が非常に小さく、直径が約0.01ミクロン(=10nm)で丸い形をしています。
フェライトの種類は2種類使われていてマグネタイト(FeO・Fe2O3)とマンガン亜鉛フェライト(MnOZnO・Fe2O3)です。
マンガン亜鉛フェライトの方が磁化が高くなり、磁性流体に使用するとメリットが非常に出てきます。このマンガンフェライトを使用しているのは弊社だけでしょう。
このフェライトを油に溶かすのですが(これを分散と言います)油の種類によって磁性流体の性質が決まってしまいます。「油の性質=磁性流体の性質」になると言っても良いでしょう。
油としては、イソパラフィン(Iso-paraffin)、アルキルナフタレン(Alkyl Naphthalene)、ポリアルファーオレフィン(Poly・α・olefin)、フッソオイル(Fluorin oil)等が主に使われています。

C磁性流体の安定性は?

磁性流体は、常に均一に分散している珍しい液体です。放っておいても粒子が沈殿することはありません。
これには、技術的な訳があるのです。
フェライトの周りを有機物で覆うとその有機物のおかげで粒子どうしが反発して寄ってこないのです。
この有機物の覆い方、種類や量が磁性流体を造る難しい技術であり、いかに安定した高品質の磁性流体を造るか日々研究を行っています。
しかし磁気吸引力とロンドンファンデルワールス力の2つの力(凝集・沈殿する力)に打ち勝つのですからこの有機物は大したものです。

D磁性流体の性質は?

磁性流体の性質はBで述べましたように油の種類によって決まります。油の性質によって、磁性流体の比重、粘度、沸点、蒸気圧、引火点、表面張力等が決まるからです。
もう一つフェライトの含有量(濃度)によっても磁性流体の性質が変わります。
含有量によって磁性流体の比重、粘度、(これらは油によっても影響されます)飽和磁化が変わります。
フェライトの含有量を多くしていくと、その分磁性流体の比重が高くなり、粘度も増加し、飽和磁化も大きくなります。特に粘度は増加のしかたが極端で、非常に大きくなり実用化は難しくなってしまいます。
しかしフェライトの含有量が多い方が、真空シールに使用する際に真空に耐える力が大きくなり良いのです。
以上のことよりフェライトの含有量が高く粘度の低いと言う相反する性質が磁性流体には求められ、磁性流体の研究が日々続いているのです。
そしてこの度この両方の要求を実現させた新製品MFA-08、MFA-10、MFF-03が誕生致しました。

E比透磁率

比透磁率というのは「小さい磁場に対してどの位磁化されるか」という事を磁化:磁場の比で表わします。この値が大きい程、磁性を利用した応用製品では有利なのです。
しかし磁性流体の比透磁率は非常に小さくて1.5前後です。(MR流体の比透磁率も非常に小さくて2〜3程度です。)これはやはりフェライトの粒子(磁性流体)や鉄の粒子(MR流体)が非常に小さい為と考えられます。
比透磁率が小さいという事がなかなか応用製品の出てこない理由の一つです。

F磁性流体の応用

磁性流体は磁石と一体になって使用されます。
種々の応用が考え出され、その中で商品化されたものには次の様なものがあります。

a.傾斜角センサー
ガラス容器に磁性流体と少量の気泡を入れ密閉して、その気泡のずれを二つの巻き線のリアクタンスの値の差 としそれを電気信号の変化量にかえて傾斜角を検出します。土木関係 の非常に精密な測量機器に搭載されました。
その傾斜角の読み取り誤差は1〜2ミリ秒でし た。角度は度→分→秒と小さくなりますのでミリ秒は非常に小さな角度の誤差で驚くべき精度です。

b.磁気軸受け
ポリゴンミラーのモーターの軸を磁性流体で浮かし、いわゆる磁気軸受けとして応用したものでレーザープリ ンターに使用されました。
そしてこの事により、モーター開発担当の方々が日本機械学会賞・技術賞を受賞されました。磁性流体の開発にあたった私にとっても嬉しい出来事でした。

c.水力発電
水力発電のモーターの回転軸から、発熱により潤滑油のオイルミストが発生する場合があります。そのオイル ミストを外部に発散させない為軸シールが使われました。
この時は、オイルミストと混ざらない磁性流体 ということでフッソオイルベースの磁性流体が使われました。

G終わりに

以上商品化された事例を挙げましたが、これらの製品の中で今は使われていないものもあります。又、商品化出来なかったテーマもたくさんあります。
有色性磁性流体と言って赤い磁性流体と青い磁性流体を研究したのですが、商品化までいきませんでした。
磁性流体の応用製品は難しいですが面白い素材です。少ない量で価値のある商品を開発する事を考えると、センサー等に可能性がまだまだありそうです。

その中で、現在一番使用されているのがシール用磁性流体です。半導体製造装置、液晶パネル製造装置、太陽電池製造装置、有機EL製造装置、等種々のシールに使われています。
その他にも搬送ロボット、X線発生装置、スパッタリング装置、エッチング装置、真空チャック、真空炉・加圧炉、撹拌装置、などたくさんの分野で磁性流体シールが使われています。
外部環境の汚染から守り、クリーンな環境を保つため日々活躍しています。

磁性流体シールはこれからも裾野を広げ、発展していくものと考えられます。
この様にたくさんの分野で使用して頂くために弊社は、磁性流体の研究、開発の努力を日々続けております。


梶@M.F.Tech.
今井 利和
2013.8.29(改)